​新たなる挑戦〜世界一美しい食材を目指して〜

​◆栽培開始〜品種選びへのこだわり。

 鉢植えと切り花の薔薇の品種を合わせると日本だけでも約2万種、全世界では何万種にも及びます。薔薇が世界中で愛され、古くから新しい品種が開発されてきた証です。

まず考えなければいけないのが、その多くの品種の中から食用として栽培する品種を選ぶことでした。花形、香り、色、栽培のし易さ、食用であればこその食味。品種を選ぶ条件は色々ありましたが、一番大事にしたのは「人を感動させられるか」でした。

 薔薇の知識が乏しい私は、薔薇の生産者の方から助言をいただき、近年観賞用で人気のある花形、香り、色の傾向を勉強しました。人を感動させられるものでなければ・・・と、栽培のし易さ、耐病害虫性と言った生産者側の都合は一旦置き、品種を選んでいきました。

​こうして22種類の薔薇を選び、栽培をスタートすることにしました。

​◆栽培開始〜薔薇を食用に育てるには。

 食用薔薇の栽培で切っても切れない最大の課題が、病気・害虫への対策です。

お米、野菜、果物など農作物には必ず、品目ごとに安全基準が国によって定められた「登録農薬」が存在します。

農薬は、使い方によって安全性は疑問だが効果の高い化学農薬と、天然由来で安全だが効果の低い有機農薬に分けられます。もちろん化学農薬を使わない農業に越したことはありませんが、虫にかじられ穴の空いた野菜、病気にかかっている果物を誰が買ってくれるでしょう?営利性の面から見ても今の日本の農業は化学農薬に頼らなければならないのが実情です。

 薔薇を食用にするなら同様のことが言えます。

本来薔薇は植物としての性質は強健ですが、品種差で病害虫には弱い性質があります。そのため見た目の美しさが問われる観賞用の薔薇は、多くの生産者の努力と幾度もの化学農薬による防除であの美しさが守られているのです。

​これは決して悪いことではなく、見た目を最優先しなければならない観賞用薔薇には必要なことです。

 しかし実際に口にする食用薔薇となると話が全く変わってきます。

安心、安全なものでなければいけません。もともと花を食べる文化がない日本には、花を食用にするために安全な農薬を定めた基準がほとんどなく、薔薇に至っては未だ登録農薬は一つもありません。

つまり、薔薇を食用にするためには一切化学農薬に頼ることができないのです。

それ故に薔薇を化学農薬に頼らずに綺麗に栽培するなんてことは不可能だという人もいました。

​そんな時に、有機栽培(JAS)という言葉に出会いました。

​◆日本農林規格JAS法

 日本農林規格JAS法、通称 "有機JAS" とは、国がすべての農産物に定める高い安全基準です。その厳しい基準に則った栽培方法を実施し、JAS認定機関により行われる書類審査・現地審査・細かな栽培履歴の提出などの手続きを経て承認を受けることで初めて認可されます。

認可された個人・企業は有機JASの証である「JASマーク」または「有機○○」「オーガニック○○」という言葉を商品に表示することが許されます。

 つまり簡単にいうと、化学農薬・化学肥料に頼らず大地の持つ力を最大限に活かし、自然本来の循環の中で病害虫にも負けない健康で丈夫な農作物を育てるということです。

​その健康で病害虫に負けない薔薇を目指し、有機JASの基準に従い、栽培を始めました。

​◆有機栽培は荊の道へ

 農業において一番核となる土作りからスタートしました。

有機質のチップ、堆肥などで土中の有効微生物を増やし、根の張りを強くするために排水・保水にも気をつけました。土の栄養素も調べ足りないものはJASで使用可能な有機肥料で補いました。

植え付け後しばらくは調子良かったのですが、やはりそんなに簡単なことではありませんでした。

 日に日に成長し蕾をつける位の時期になると、やはり病害虫が発生し始めました。

天候や周囲の影響を受けないようにビニール温室を利用し、外からの虫の侵入を防ぐために防虫ネットも使用しましたが、目にようやく見えるような小さな虫はどこからでも侵入してきました。

薔薇につく虫というと、アブラムシ・アザミウマ・ハダニ・コナジラミなど。病気でいうとウドンコ病・黒星病・ベト病などがありますが、それぞれ好む気温・湿度があるため何かを防げば別のものが発生するの繰り返しでした。

頼れるものはJASで使用が許されている油やデンプン、植物エキスなど天然物由来の有機農薬が数種ありましたが、もちろん化学農薬に比べて効果は低く、劇的な改善は見られませんでした。

 一輪一輪、手作業で掃除する日々。途方もない虫の数にため息ばかりの時もありました。

一度発生し、増殖を許してしまうと止める手段がありません。

これ以上の悪化を防ぐためにようやく咲き始めた薔薇の花たちを全て切り、胸が締め付けられる想いで一度に何千輪も処分したことが何度もありました。

それからそれぞれの病害虫の生態、発生原因、効果的な対処法はないか調べる日々が続きました。

大前提として樹を健康にすること。可能な限り環境を整えることに尽力しました。

​少しずつ改善されてきましたが、日々変わる天候、自然を相手にすることで少しでも気を抜けない状況はこれからもきっと変わらないでしょう。